がんばり坂の家

ヤドカリプロジェクト#1
木造2階建て・リノベーション・57㎡

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東南側の崖上からの俯瞰(撮影:淺川敏)

ヤドカリプロジェクト

静岡県の浜松駅から約2km。住宅街の小さな空き家を買取ってスケルトンリフォームし、自邸として復活させた。これは、一般的な建築家自邸とは異なる「連作型」自邸プロジェクトの第一弾である。リノベーションした空き家は自邸として供用したのち転売し、また次の空家を自邸としてリノベーションする。 転売益をあげながら、自らはヤドカリのように移動し、足跡となる空き家を一つ一つ蘇らせてゆく。

浜松市は自動車等の製造業が強いが、生産拠点の海外移転リスクなど産業構造の弱点にもなっている。一方で、土地に根付く建築文化はこれまで弱かった。このプロジェクトがまちの魅力を多様化する一助になればと期待している。

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室内から南側の庭を見る。室内の1/3は土間となっている。(撮影:淺川敏)

既存の建築形式を素材と捉える

空き家はシンプルな平屋のプランで、南側の庭に対して掃き出しの窓が並んでいた。垂れ壁や建具を撤去しワンルーム化することで、南に開いたこの建築形式の豊かさを最大化し、どこからでも庭を感じられる、庭の一部のような室内空間を目指した。

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改修前の室内

沿道空間のリノベーション

前面道路側に突き出ていた既存の玄関部分は減築し、自動車の乗り入れができるように改修している。耐震化・断熱化・躯体の状況確認も兼ねて、外装材は一度全て剥がして仕上げ直している。新しい玄関は、断熱材が充填された「半透明の動く壁」で、夜になると室内の灯りを透過し、沿道空間を仄かに照らす。

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改修前のファサード

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架構の状態まで解体

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東側からの俯瞰(改修後).写真中央は半透明の断熱壁。スライド開閉して玄関となる。(撮影:淺川敏)

敷地への応答

鴨江は比較的ガケの多い地域であり、いわゆる「ガケ条例(※)」により「再建築不可」となる土地も多くなっている。ガケ近くに家を建てる場合は通常、ガケ崩れから家を守る擁壁を立ち上げるか、コンクリート等でガケを補強する等しなければならない。従って、ガケ近くで家を建てる場合は通常大きな出費を強いられる。

今回のケースでも南側の土地の一部が7mのガケに面しており、静岡県による「土砂災害警戒区域」(ガケの一部は同特別警戒区域)の指定を受けているため、土地価格は格安となっている。

ここでは、増築部の腰壁を鉄筋コンクリートで立上げることで擁壁を兼ね、ガケ条例に適合させている。建築の工夫により、土地の不利な条件を克服したと言える。ガケから距離をとるためのスペースは、バーベキューなどのイベントにも利用でき、地域を巻き込んだイベントの際などにも有用な庭となっている。

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改修前の南庭の状態。左奥ががけ

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待受壁による対策

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断面透視図

転売後のシミュレーション

ヤドカリプロジェクトでは、「転売や賃貸された後にどのような使われ方をするか」も見据えた改修を行う。下図は、「がんばり坂の家」の改修設計に際して行った市場調査データ。周辺の人口動態や世帯人口、物件の需給状況なども調査し、次の利用形態をシミュレートしている。

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ワンルームへと改修したこの家は、自由に間仕切ってSOHOとすることはもちろん、近隣事例にもある学習塾などとしても利用しやすくなっている。建築の耐用年数を想定し、除却までにどのような用途に転用されるか具体的に検討しておくことは、長く使われる建築を考える上で大切と考えている。

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SOHOとして利用する場合のイメージ

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昼間は学習塾、夜は住宅として利用する場合のイメージ

ワンルームの自由度

物件として「1R(ワンルーム)」に分類されるとファミリー層には検索され難いが、室内には耐力壁がないので家族向きの住宅への間取り改修も容易となっている。同じ住戸面積であれば、デフォルトで個室が多い「nLDK」よりも「1R」の方が自由度は高い。以下は、間仕切りを立てて個室を設ける、家族向きの間取り改修案である(工事費はおそらく50万円程度)。

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土間の半分は「玄関 兼 書斎」として残し、ワークスペースとして活用。

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建具やブラインドの開閉により、視線・光・音をコントロールできる

 

 

 

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※静岡県建築基準条例第10条(がけ付近の建築物)
がけの高さ(略)が2メートルをこえるがけの下端からの水平距離ががけの高さの2倍以内の位置に建築物を建築する場合は、がけの形状若しくは土質又は建築物の位置、規模若しくは構造に応じて安全な擁壁を設けなければならない。
ただし、次の各号の一に該当する場合は、この限りではない。
一 堅固な地盤を斜面とするがけ又は特殊な構造方法若しくは工法によって保護されたがけで、安全上支障がないと認められる場合
二 がけ下に建築物を建築する場合において、その主要構造物を鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造とした建築物で、がけ崩れ等に対して安全であると認められる場合

 

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