がんばり坂の家

ヤドカリプロジェクト#1
木造2階建て・リノベーション・57㎡

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東南側の崖上からの俯瞰

静岡県の浜松駅から約2km、住宅街の崖沿いに建つ小さな空き家のリノベーション。

三方原台地の縁に位置する非常に急な坂を登り、中腹で顔を上げるとこの建築に出くわす。改修前は、道路ぎわにそそり立つ擁壁に視界を阻まれて、坂の上から見下ろすまで家が建っていることにも気が付かないような状態だったが、突出していた玄関のボリュームを減築し、擁壁を半分ほど解体し、自動車の乗り入れができるようにするのに併せて、道路に対して建築を「少しだけ開く」ようないくつかの操作をした。

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改修前のファサード*

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東側からの俯瞰(改修後).写真中央は半透明の断熱壁。スライド開閉して玄関となる.

「開く」といっても、閑静な住宅街の一画で明け透けに室内を見せるような操作は無作法に思えたので、ここでは少し明るい軒下空間を道路に差し出す程度に留めた。玄関を閉じれば道路側はほとんど「壁」なので、「閉じている」という方がむしろふさわしい。

軒の一部を方杖で支えて一間分のばし、最も深い部分も暗くなりすぎないよう屋根にスリットを設けてある。ファサードは北向きなので直射光は射さないが、スリットからの天空光や周囲で反射した光を受けて、ガルバリウム素地の外壁が仄かに輝く。夜は、断熱材を充填した半透明の玄関引戸が室内の明かりを透過して発光し、沿道を柔らかく照らす。なお、耐震化・断熱化・躯体の状況確認の意図を兼ねて、外装材は一度全て剥がして仕上げ直している。

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当初の空き家はシンプルな平屋のプランで、南側の庭に対して掃き出しの窓が並んでいた。垂れ壁や建具を撤去しワンルーム化することで、明るい庭に開いたこのシンプルな建築形式の豊かさを最大化し、どこからでも庭を感じられる、庭の一部のような室内空間を目指した。玄関引戸を開けるとすぐに視界は庭へと抜けていくように改修した。

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改修前の室内*

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改修後.玄関から土間・庭を見通す.

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室内から南側の庭を見る。室内の1/3は土間となっている。

従前の水平天井は落として屋根なりの勾配天井とすることで、上部に生じる余白の空間に陰翳を溜める。冬、南の庭側から入る日差しはフローリングに反射して室内を暖かく照らすが、上部は光が届きにくく、光の自然な諧調が生まれる。また、改修前は天井裏だった部分にロフトを設けており、視点場の変化も楽しめるよう意図している。

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鴨江は比較的ガケの多い地域であり、いわゆる「ガケ条例(※)」により「再建築不可」となる土地も多くなっている。今回のケースでも南側の土地の一部が高さ約7mのガケに面しており、静岡県による「土砂災害警戒区域」(ガケの一部は同特別警戒区域)の指定を受けているが、増築部の腰壁を鉄筋コンクリートで立ち上げることで擁壁を兼ね、条例に適合させている。ガケから距離をとるためのスペースは、ワークショップなどにも利用でき、地域を巻き込んだイベントの際などにも有用な庭となっている。

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改修前の南庭の状態.左奥ががけ*

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土間から板間を見通す.右手奥に見えるコンクリートの腰壁が擁壁を兼ねる

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素材の選択に際しては、新旧がそれぞれ尊重し合えることを最も重要なクライテリアとした。既存を再利用する軸組の木材が粗い質感なので、新たに仕上げる部分も粗めのテクスチャを基本とし、勾配天井はラワン合板の裏面を使用、土間床は外構舗装でも頻繁に用いられるインターロッキングブロックとした。

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Credit
意匠設計監理 白坂隆之介|REGION STUDIES Inc.
構造設計 田尾玄秀|樅建築事務所
構造監理 水田昌孝|水田建築設計室
設備設計監理 大屋謙二|大屋設備
照明設計監理 吉楽広敦|tuki lighting office
施工 水田年雄|水田建設
造園設計施工 田中俊光|ナインスケッチ
写真 淺川敏|ZOOM
(*のみ 白坂隆之介|REGION STUDIES Inc.)

※静岡県建築基準条例第10条(がけ付近の建築物)
がけの高さ(略)が2メートルをこえるがけの下端からの水平距離ががけの高さの2倍以内の位置に建築物を建築する場合は、がけの形状若しくは土質又は建築物の位置、規模若しくは構造に応じて安全な擁壁を設けなければならない。
ただし、次の各号の一に該当する場合は、この限りではない。
一 堅固な地盤を斜面とするがけ又は特殊な構造方法若しくは工法によって保護されたがけで、安全上支障がないと認められる場合
二 がけ下に建築物を建築する場合において、その主要構造物を鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造とした建築物で、がけ崩れ等に対して安全であると認められる場合

 

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